円周率は3と新聞報道

毎日新聞誤報に注意せよと、比較的早い段階から警鐘を鳴らしている。

2001.04.04 東京朝刊 14頁 特集

 小学校5年の算数で学ぶ円周率。新学習指導要領で教える内容が削減されるのに伴い、「円周率をおよそ3と教えるようになる」という誤解が広まっていたが、すべての教科書で「3・14」と記述された。「円周の長さが直径の長さの何倍になっているかを表す数を円周率といい、ふつうは3・14を使います」などと記述され、円周率を使って計算させる練習問題も載っている。
 新指導要領は現行の指導要領と変わらない。しかし、「目的に応じて3を用いる」という部分だけが取り上げられ、誤解を招く結果になった。

 

誤報と注意喚起する内容だが、結びが意味不明。

2001.04.11 東京夕刊 3頁 総合

 新旧指導要領の内容は、この点では変わっていない。したがって、今回検定をパスした小学校教科書は当然すべて「円周率3・14」を採用した。つまり、私の見たテレビニュースは明確に誤報を流していたのだ。すでに刊行されている「教育白書」の記載を参照していなかったのだから、この誤報の質は悪い。
 本紙は4日朝刊で「3・14採用」と「誤解」について報じた。たった一つの事例からテレビニュース全般を論じるのは乱暴なことは分かっている。新聞だって間違うことがあるじゃないか、という声も聞こえてくる。だから、ここでは、ごく穏当に「新聞も読んだ方がいい」とだけ書いておく。【奥武則】

 

誤報批判。

2002.09.22 大阪朝刊 1頁 1面

学力低下は問題だが、誤った前提をもとに議論しては困る。今春施行の新学習指導要領には、「円周率は3・14を用いるが目的に応じて3で処理できるよう配慮する」とある。以前と同じだ。それを「3になった」と早合点した一部メディアが、「教科書から3・14が消えた」と流した。学習塾の広告があおったとの説もあり、「あしきゆとり教育」の象徴にしたい論者が、不正確を承知で言い続けたフシもある

 

ただし、地方版や個人意見の紹介だと普通に3としていたりする。

2004.11.21 地方版/佐賀 19頁

時間だけでなく教える内容も3割減った。「3・14」が常識だった円周率が「約3」と省略された他、昔習った記憶のある台形の面積の公式や帯分数は教えなくなった。

 

続いて読売。円周率は3で教えるという前提の記事。

2000.04.24 2年後の新学習指導要領 「3割削減」こう変わる 学力低下、危ぶむ声も 東京朝刊 教育A 27頁
 算数ではこのほか「四年生で三けた同士のかけ算を扱わないのは大問題」「筆算する場合、円周率を『3・14』ではなく『3』で計算するのは乱暴過ぎる」など、新要領批判がかまびすしい。

 

円周率に限らずハチャメチャな内容が多い個人意見系の記事。

2002.04.05 大阪市の小学校で入学式 「完全週5日制」導入に期待と不安  大阪夕刊 夕2社 14頁
長男が入学した母親(37)は「円周率を3と教えると聞いて、子供にとって本当にいいのか少し心配」、別の父親(40)は「ゆとり教育といっても題目だけになるかもしれず、様子を見守りたい」などと話していた。

 

さりげなくリスクヘッジする読売。

2002.08.23 教科書超える指導例、まず算数版作成 ゆとり教育修正/文科省 東京朝刊 一面 01頁
新要領は円周率について、五年生で「3・14を用いるが目的に応じ3を使う」とし、現行の教科書にも3・14は載っている。だが、小数点二位以下の乗除が消えて、筆算では主に3を使い、3・14で計算する場合は電卓を使うようになったことで、「円周率は3と教える」との“誤解”が定着した。電卓の使用も教師らから不評で、同省は今回さりげなく復活させた形だ。

 

怒れる編集委員

2008.06.28 [教育を診る]数字の常識、疑う大切さ 東京朝刊 教育A 18頁

編集委員・中西茂 円周率を3と教えることになった――とは、「ゆとり教育」批判で象徴的に取り上げらえたエピソードだ。実際の学習指導要領の表記は「円周率としては3・14を用いるが、目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮するものとする」。すべての教科書に円周率は3・14と記載されている。全くの誤解なのだ。 いまもこの誤解は解消されていない。

 

後年は「3を用いて教えてもOK論説」が増える。

2010.04.03 [知っておきたいニュースはこれ]3月27日〜4月2日 大阪夕刊 夕週間 03頁 3・14  基礎の反復や実験、思考力、表現力の向上が意識され、ゆとり教育の流れで削減された内容が復活している。 その代表が算数の円周率。これまでは「3」を用いて教えることも可能だったが、今回は「円周率は3・14」と明記するように求められた。

 

最後に朝日。読売や朝日には、日能研の高木幹夫氏がたびたび登場。

朝日新聞 2000年02月20日 朝刊


高木幹夫さん 新学習指導要領を批判する塾経営者(ひと) 
 「『二〇〇二年問題』は、『Y2K』(コンピューターの二〇〇〇年問題)より深刻。二十一世紀の日本をダメにしかねない文部省の暴挙だ。世界各国が教育改革をして子どもの学力を向上させようというのに、学力が下がってもいい、って言うんだから」 穏やかな口調で、超辛口の批判を繰り出す。 この春、新しい学習指導要領に沿った授業への移行措置が始まり、二〇〇二年に小・中学校で本格実施となる。 「算数では小数第一位までしか扱わないから、小五で教える円周率3・14が消えてしまう。小数の計算は面倒。だから計算力がつく。煩雑さを避けようと式を工夫することで、思考力も鍛える。それを放棄させるなんて」  

 

こちらは別記事でも引用した。新聞ではなく週間朝日。高木氏は論理が粗い。 

2001年05月04日 週刊 週刊朝日

 「ウッソー 円の面積を求める公式 半径×半径×32002年、小学5年生は円周率を3・14ではなく、およそ3として求積計算を行います。ホントです」 日能研代表の高木幹夫さんに聞こう。 「遅いんだな。今は全然そんなこと言ってないの」 ――それで円周率が3になるという根拠は? 「計算させるのは、小数点以下1位までとなっているでしょ。だから」 ――円周率は別のようですが、確認されましたか? 「確認なんて、できる立場にないですもん」 ――今も3になると思い込んでいる人が多いようです。 「まあ、3説が独り歩きしたようなところもあるけれど……そこまで責任はもてませんよ」

 

地方の記事1。

2002年04月14日 朝刊 高知1

ここでは例えば、今春からは「3」で計算することになった円周率を、従来通りの「3・14」で教えるほか、台形の面積の求め方など学校では教わらなくなった知識を身につけさせるという。

 

 個人意見系の記事。

2003年04月13日 朝刊 教育1

例えば、複雑な計算では円周率を3として計算することで、計算力は落ちるでしょう。高校理科の多量の計算をこなせるのでしょうか。

 

地方の記事2。

2003年06月07日 朝刊 群馬1

昨年度から義務教育の内容と時間が3割減った。円周率が3・14から約3になったことが象徴として取り上げられる。

 

やはり他の新聞と同様、2003年あたりから急に円周率は3の記事が減る。

下記は後年の記事。他人事みたいになっている。

 2012年09月06日 朝刊 教育1
(「脱ゆとり」の真相:中)円周率「3」の波紋 大手塾が宣伝、風向き変わる

日能研は、文部省のその後の発表で円周率や台形の面積を教えないわけではないと理解し、キャンペーンを3回で打ち切った。だが、宣伝はメディアを通じて紹介されていった。それに前後し、大学教授らから学力低下批判も起き始めていた。

 

他にも引用できていない記事は大量にある。

リサーチに力を入れて引用したわけでないので、

細かい流れは正直まだよく解らない。

こういうのは過去の教育史としてきちんと誰かが総括すべきである。

税金掛けてもいいから、学者や役人がきちんと総括して

集合知形式でデータベース作るべき。

この国には、教育の誤解を回収する機能が存在しない。

ウィキペディアやネットでの個人による書き込み等、副次的な方法に限られている。

ネット以前とかヤバかっただろうな。

また資本主義は積極的に誤解を回収しようとしないのではないかな。

放置したほうが儲かるし。 

 

以下余談。

教育系データを画像検索なんかでググると、

地方行政や学者が作った似たグラフが大量に出てくる。

しかも決まって最新のデータが出てこない。

 

似たようなデータを、規格化されず転用しにくい形式で

色んな人が何度もまとめまくっている。税金で食いながら。

ああいうのは税金を同じところに掛けた多重行政でしかない。

教育行政はこういうの多すぎ。

雇用は減るかも知らんがAPI叩いて一撃みたいにすればいい。

これについてもまた書こう。

 

とにかく教育に関する情報=事実関係が入手しにくい。

この国の教育行政にはこうした問題点がある。